よまずに語る『物価とは何か』

2月12日の朝日新聞に物価とは何か(渡辺努著)の書評がでていました。

オイルショック時代物価が上がったと言われているが、実はその時代お菓子などは値上げされておらず、全体としては物価の上昇がなかった

なお、”実証的”な研究に基づく本ということです。

著者はマクロ経済学の専門家ということで、なるほど、マクロの専門家は価格をこうとらえるのか、と驚きました。

価格理論はどちらかというとミクロ経済学に属する分野でその点はこの本について留保が必要だと思いました。

実はこの本を図書館で借りてから書こうとしたのですが、結構予約がいっぱいなので、、アマゾンの書評なども参考に朝日の書評を読んだ知識プラスアルファでちょっとメモ的に書かせてもらいます。

まずミクロ経済学では価格弾性というものがあって、大きいものと小さいものがあって、嗜好品などは大きいと。なので、生活必需品は価格が上がってもひとびとは買わざるを得ないので価格は原材料などの価格に応じて値上がりしやすい。一方嗜好品は価格が上がると買われなくなるので、値上げはしづらい、というところは渡辺氏の書かれているとおりでしょう。しかし、だからと言ってそれが妥当なのかは疑問です。菓子の原材料はほぼ輸入に頼っているわけですし、日本の場合大手の工場で製造してそれを輸送して販売します。そうなると、原油が高騰しても菓子の値段が同じということは、原材料や工場での燃料、運賃のうちの燃料は上がっているわけですから、それをいろいろなところで吸収しているとしかいいようがないと思われます。もちろん製造コストで技術的なブレークスルーがあれば別ですが、往々にして人件費が削減されエイルのではないでしょうか?そのような分析はマクロ経済学の範疇ではないのでおそらくは渡辺氏には興味がないところでしょう。でもそれでいいの?と思います。経営者にとって一番調整しやすい(特に日本で)人件費をカットして価格は抑える、という方策は長期的にみれば国の衰退をもたらすのでは。また、渡辺氏は賃金について書いていますが、日本の賃金上昇の時代は、おそらくは、それを住宅を買わせることによって、銀行は安定したローンを貸し出す。また、そのための頭金は事前に貯金させることで貸し出しの種にできるという、あげているけど結局は銀行が民間企業に投資するための資金ということで回っていたのではないでしょうか?そういった政策的な面を無視しているように思えます。またアマゾンによると日本の物価はPOSを通っているので分析しやすいと言っているようですが、学者の言葉とは思えません。たとえばたまごなどはスーパーでは目玉として安く売られていることが多いのはよく知られるところです。そのようなものをマクロ経済で分析する”価格”といっていいのか?と思います。おそらくPOSを通った商品の価格を分析する、という研究には都合がいいのでしょうが、それでものを言われては困ります。野菜だって卵だって米だってパンだって、すくなくとも私が買うようなところではPOSは通さないようなお店です(レジは通してますよ。当然。誤解なきよう)逆に私自体の購入を考えるとお菓子などは安いスーパーで買います。そうなると、POS上は安いことになりますが、そういった生活必需品は近くのお店、お菓子などまとめ買いで安く買った方がいいものはスーパーのようなひとはそれなりの数いるのでは。ましてやコンビニのPOSで同じお菓子は買いませんね。また、もっと身近な例だと一見POSを通しているように見える、ガソリンの価格は実は集計はされていないと思います。店ごとに独自で価格を決める以上、販売会社が子会社であればその数値くらいは持っているかもしれませんが、そうでない会社の価格を知ることは出来ないと思います。コンビニとは業態が全く違います。そこは渡辺氏は区別しているのでしょうか。ものの値段でPOSを通している価格が全てと思って日本はいいと思っていたら大間違い。逆にコンビニなどはフランチャイズの自由な価格づけが出来ていないというのは逆に経済学者としては問題というべきではないかと思うのですが。(先にお菓子はコンビニでは買わないと言いましたが、スーパーと同じ値段で売ろうにも、本部からの仕入れが下がらないと売価は下げられないし下げないように強制しているとも聞きます。問題じゃないでしょうか?)

ということで朝日の書評者はあまり問題にせず、書いているようなことからも結構問題が大きい書物と思いました。もちろんマクロ経済学の本と思って読めば、なるほど、というところですが、残念ながらこれを実際の経済政策などに結びつけられるととんでもないことになるという感じです。まあ著者は学者というよりは日銀などで過ごした人のようですから、著者のエッセイのようなものと見れば目くじらを立てるものではないのかもしれませんが。朝日の書評者も、マーケッティングの実務家の方のようですからそういった学問としての経済学をやってない人同士の何かと思えばまあしょうがないですなあ。

ここまで書いて考えましたがおそらくマクロ経済学の人たちにとっては原油高騰でもお菓子など価格弾性が高い商品の価格は上がらないのでその事実をもとに書いている、ということなのでしょう。わたしの視点はそのようなことがなぜおきるか、そしてそれは労働者の馘首や賃金カットなどとつながっているのではないか、というところまで踏み込んだものです。おそらくはマクロの専門家にとってはそのような問題はまさにミクロ経済学の分野で考えればよいので、マクロ経済学はありのままの事実を示しただけ、ということですが、あたかもそれが”正義”であるかのようなことを考える人もいるのではないか。逆に人件費をカットしたり原材料を買い叩いたりしても、とにかく価格をあげないということが正しい、というようなことになってしまうと話は別かと思います。特に日本ではコスト+利益で価格が決まるという合理的な考え方がされない商習慣があるように見えるので尚更です。政府のインボイスがこのような風習を無くしてコストと適切な利潤を乗せた価格の決定に寄与できるのであれば、特に中間生産物を作る中小企業を守ることになるとおもいますので歓迎ですが。大企業でも某製鉄会社などは某車ネーカーに対して怒っているわけですが。