朝日新聞4月26日朝刊の書評欄(科学的根拠で子育て)

好書好日にはまだ出ていないようだが、紙の4月26日朝刊で山口慎太郎東大教授(労働経済学)が中室牧子氏の『科学的根拠(エビデンス)で子育て 教育経済学の最前線』を紹介していた。以前大竹文雄氏も毎日新聞で紹介していたが、どうもその界隈の人たちは仲間同士のほめのようなことはあまりみっともないとも思わない世界らしい。それに比べると哲学の世界は野矢茂樹氏や佐倉統氏のように仲間でも容赦なく批判する人たちでこちらの方が気持ちいい。

さて前置きはともかくとして、ここで紹介されていることは小生にとってはとてもこれを信じたから例えば自分の子どもを育てる指針にできる、というものではなく、あくまでもそういった調査などの結果そういった結果が得られた、ということを読むだけになってしまう。一方、こういったことが”政策”となると大問題で、山口氏が述べているように”不確実性”がかなり大きいと思われる。そういう言い方を経済学者はするのかとこの書評でとても感服したのだが、経済学的にいうとそのようなことで終わるのだろう。それをわかったうえで読まないといけない本で、自分の子どもをこのとおり考えて例えばスポーツのリーダーにしようとかそんなことを考えてもしょうがないと思う。実際に社会にでれば、例えば学閥であるとかいろいろあることはみんな知っている。同じ朝日新聞の4月26日朝刊のスポーツ面で紹介しているような、評者の所属する東大野球部の主務などといえば就職は確実だし、こういう人は偉くなるのであろう。主将(プレーヤー)ではなく主務(事務長?)である。まあそんなひとはそうそういなくてこれが著者の慶応大学の野球部や応援団なども恵まれた人たちなのであろう。しかし、じゃあ同じ運動部の主将や主務といってもこれがみんな当てはまるか?といえばそんなわけではないことはみんな知っているのではないだろうか?そういった疑問にはこの本は山口氏のいう”不確実性”ということを考慮して初めて納得させられる本だ。

ちなみにスポーツの主将などについて、最近小生は、高校野球や女子バスケットボール選手のインタビューを見ていて、主将の役割は単にチームのリーダーというわけではなく、監督やヘッドコーチのいっていることをチームに浸透させるという役割も大きいことを感じている。それはまさに日本の企業で求められることではないのか。大企業であればその取引先などに若くてもそれなりのことを言えてしまうのが日本企業の構造ではないのか。そういったところから、早くからそういう上意下達に疑問を持たないとスポーツのリーダーはできないのであり、それが”いいこと”なのか”日本の成長を遅らせる悪いこと”なのかは議論があるのではないか?つまり筆者が言うところの”うまくいくひと”がうまくいく社会が本当にいいのかは答えてくれない、もちろん実証経済学にそれを求めるのは間違いであることはわかりつつも、そういうことだと思っている。

最初に書いたことと矛盾するが山口氏の書評は褒めているようでいて、最後に自分の子どもに当てはめる際はどうかは考えろという非常に示唆に富んだものでいる。山口氏は東大の教授ではあるが、学部は慶応大学商学部のご出身ということで、大学の同窓である中室氏に対しては礼を失せず、一方学者としての留保も忘れない、というさすがこういった人が東大の教授になるのだな、と思わされた書評であった。その辺は同窓であっても批判しあう哲学畑のひととは大きく異なるようである。くりかえすが小生はどちらかというと同窓であっても容赦なく批判しあうほうがすきだ。しかし、今後の学術会議の行方など見ていると、そういった集団の生産性などによって、冷や水を食うことにならないことを願っている。おそらくは”教育経済学”のような世間に役立つことを標榜してやっていく集団のほうが今後特に文系学問の中では予算を獲得していくのであろう。それがよい日本を作るかどうかは別の話だが。